欧州発のレベニューキャップ制度

将来的な想定需要が下がることを前提とすると、総括原価を圧縮するしか国民負担を減らすことはできません。
しかし、コストを下げると言っても簡単な話ではありません。ましてや、報酬を下げるのはだれにしたって嫌な話です。一般送配電事業者とて、やる気は起きないでしょう。

ここでエネ庁は、イギリスやドイツなどヨーロッパで行なわれているインセンティブ規制の、中でも「レベニューキャップ制度」に目を付けました。
レベニュー(総収入=総括原価)に対して、キャップ(上限)を設ける。
ある期間段階的に「強制的に総括原価を減らす」規制を設けることで、直接的に託送料金を抑える=国民負担を減らす、という取り組みです。

一方、一般送配電事業者に対しては、事業コストの削減を促します。
そして重要なのは、徹底的な効率化を図ることで浮いたコストを「まるごと事業者の利益としてよい」としていることです。頑張りがそのまま報酬として返ってくるなら、やる気も湧くというものです。

レベニューキャプ制度は、一般送配電事業者に事業コスト削減の自社努力を促す「インセンティブ(動機付け)を与える規制」です。そしてその削減分を原資とした利益を、事業者と国民とで分け合あいつつ、投資の財源を確保する制度であると言えます。

未来の変化に対応できるか

この託送料金改革については、今年2月25日に閣議決定された「エネルギー供給強靱化法案」に含まれており、今国会での成立が目指されています。

ここには、一般送配電事業者による自社努力だけではコントロール不可の外生的な要因を考慮した「期中調整スキーム」も入っています。今後の再エネの導入量にせよ、デジタル化のイノベーションの伸びしろにせよ、または、近年頻発する自然災害による送配電網の損傷など、いずれも予見が困難な部分については別途計算式(フォーミュラ)を設け、規制期間中に柔軟に素早く託送料金に反映させる仕組みです。

レベニューキャップ制度設計の要素
出典:電気新聞ゼミナール183より 
https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/denki/2019/190605.html

いいことばかりを述べてきましたが、反面思ったようにコスト削減が進まないリスクも当然あり、事業者にとってみれば報酬が減ることになりかねません。

自由化された市場では利益を大きくする機会もリスクにさらされる機会も均等に与えられます。今後の社会全体の最適化を考えると、基幹産業といえどもより柔軟でかつ筋肉質な企業体質が求められることには違いありません。



記:佐藤 誉世夫

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1587643420/keyword_takuso1_k8pbnh/keyword_takuso1_k8pbnh.jpg?_i=AAhttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1587643420/keyword_takuso1_k8pbnh/keyword_takuso1_k8pbnh.jpg?_i=AAaltenergy個人噛み砕きシリーズ法人連載欧州発のレベニューキャップ制度 将来的な想定需要が下がることを前提とすると、総括原価を圧縮するしか国民負担を減らすことはできません。しかし、コストを下げると言っても簡単な話ではありません。ましてや、報酬を下げるのはだれにしたって嫌な話です。一般送配電事業者とて、やる気は起きないでしょう。 ここでエネ庁は、イギリスやドイツなどヨーロッパで行なわれているインセンティブ規制の、中でも「レベニューキャップ制度」に目を付けました。レベニュー(総収入=総括原価)に対して、キャップ(上限)を設ける。ある期間段階的に「強制的に総括原価を減らす」規制を設けることで、直接的に託送料金を抑える=国民負担を減らす、という取り組みです。 一方、一般送配電事業者に対しては、事業コストの削減を促します。そして重要なのは、徹底的な効率化を図ることで浮いたコストを「まるごと事業者の利益としてよい」としていることです。頑張りがそのまま報酬として返ってくるなら、やる気も湧くというものです。 レベニューキャプ制度は、一般送配電事業者に事業コスト削減の自社努力を促す「インセンティブ(動機付け)を与える規制」です。そしてその削減分を原資とした利益を、事業者と国民とで分け合あいつつ、投資の財源を確保する制度であると言えます。 未来の変化に対応できるか この託送料金改革については、今年2月25日に閣議決定された「エネルギー供給強靱化法案」に含まれており、今国会での成立が目指されています。 ここには、一般送配電事業者による自社努力だけではコントロール不可の外生的な要因を考慮した「期中調整スキーム」も入っています。今後の再エネの導入量にせよ、デジタル化のイノベーションの伸びしろにせよ、または、近年頻発する自然災害による送配電網の損傷など、いずれも予見が困難な部分については別途計算式(フォーミュラ)を設け、規制期間中に柔軟に素早く託送料金に反映させる仕組みです。 レベニューキャップ制度設計の要素出典:電気新聞ゼミナール183より https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/denki/2019/190605.html いいことばかりを述べてきましたが、反面思ったようにコスト削減が進まないリスクも当然あり、事業者にとってみれば報酬が減ることになりかねません。 自由化された市場では利益を大きくする機会もリスクにさらされる機会も均等に与えられます。今後の社会全体の最適化を考えると、基幹産業といえどもより柔軟でかつ筋肉質な企業体質が求められることには違いありません。 記:佐藤 誉世夫-再生可能エネルギーの総合情報サイト-