今から数ヶ月前の2016年4月1日、いわゆる「電力小売自由化」がスタートしたことは読者の皆様もご承知のことと思います。
携帯料金やガス代とのセット割引など、いろんな形で電気の販売を開始した新電力(通称PPS)に乗り換えられた方もいらっしゃると思います。
12月9日の日経新聞記事で、11月末次点で234万世帯がいずれかの新電力に切り替えたという発表がありました。

とは言えこの新電力、登録だけなら誰でも可能ということで、約1,000の事業者が名乗りを上げています。
しかしながら、電力契約事業を行うためには小売電気事業者としての登録も必要となり、
2016年12月12日現在で372事業者(大手電力会社10社含む)が資源エネルギー庁のホームページに掲載されています。
業者的な立場で見ていますと、事業者として登録はしてみたものの、なかなか簡単にはいかないというのが実情のようです。

新電力 広告

PPS(新電力)の現状

実は電力小売りの全面自由化が始まる1ヶ月前の3月、日本ロジテックという会社が新電力事業を撤退したという話が話題となりました。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、日本ロジテックは新電力として2010年から事業を開始し、
新電力の中でもシェア5位、全国で6,000件の顧客を抱えていたいわば「大手」です。
撤退の原因としては、自社発電設備を持っていなかったため、安く電気を売るために他から調達しなければならなかったこととされています。
売上としては2015年3月期に550億円合ったにも関わらず、調達に際しての資金繰りが悪化したために撤退を余儀なくされたそうです。

今回の記事では、新電力のビジネスにおいて、その利益構造がどうなっているか?何が障壁となっているのか?ということについて紐解いてみたく思います。
ちょっと内容が難しく、長くなりそうですので数回に分けてご説明したく思います。

ではまず、新電力はどうやって儲けているの?ということに着目してみます。
その前に…新電力の売り物は「電気」です。どのように電気を調達するか?によって、大きく4つに分類できます。

 

PPS(新電力)の電気の調達方法

①自家発電余剰電力を購入する
⇒大規模工場などが持っている自家発電の余剰電力を購入し供給するタイプ

②卸電気事業者からの供給
⇒火力発電所などから電気を調達

③自社発電システムからの供給
⇒太陽光発電や風力発電など、自社で所有している発電所から電気を供給

④卸電力取引所(通称:JEPX)からの調達
⇒電力市場から調達

 

新電力の登録に際しては、どうやって電気を調達するか?を明記する必要がありますので、
自社発電所を持っていないような企業は④の市場からの調達を選択することが出来るわけですが、
300社以上の競合が存在する中で市場からの調達だけでは蹴落とされてしまうことは自明の理でしょう。
やはり、自社で発電所を所有している企業であったり、卸電気事業者とのパイプを持っている企業が有利な構造となっています。

いずれの調達方法を選択するにせよ、かかった調達コストに対しては、国の定めにより費用負担調整機関という公的機関からの交付金が新電力に対して支払われ、
結果的に安価な仕入れが可能になります。

PPS(新電力) 電気の調達方法

太陽光発電システムで発電した電気は売電することが出来ますよね。
太陽光発電システムなどの発電設備を所有している人をIPP=Independent Power Producer(独立系発電事業者、または卸電力事業者)と呼びます。

 

2016年度の住宅用の買取単価は31円/kWh(出力制御対応義務ありのエリアは33円/kWh)ですので、
例えば東京電力などの「一般電気事業者」に対して売電できます。その対価として31円/kWhが支払われます。
東京電力は、消費者から徴収した賦課金を一度、費用負担調整機関に納付し、買取費用の交付を受けます。
この際、「回避可能費用」が差し引かれた金額が支払われることになります。
回避可能費用とは、一言でいうならば「電気を作り出すための原価」です。
例えばAという会社が100kWhの電気を作ってくれたとします。
その電気を買い取ることで、本来自分たちで作らなければならなかった100kWhの電気を作ることを回避できるわけです。
ですので、その分だけは負担しますよ、ということで差し引かれるわけですね。

 

一般社団法人低炭素投資促進機構によると、2016年の12月時点での東京電力の回避可能費用は7.74円/kWhですので、
31円/kWh-7.74円/kWh=23.26円/kWhが戻ってきます。
つまり、実質7.74円/kWhの負担で電気を調達できることになります。
これだけ見ると、「相当儲けている?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、新電力が負担するコストにも着目しなければなりません。
そこに登場するのが「託送料金」や「インバランス料金」と呼ばれる費用です。

 

次回は、新電力が負担するコストについて触れてみたく思います。

 

 

(記:田中圭亮)

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1481849014/pixta_22969146_M_sqnz7g/pixta_22969146_M_sqnz7g.jpg?_i=AAhttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1481849014/pixta_22969146_M_sqnz7g/pixta_22969146_M_sqnz7g.jpg?_i=AAaltenergy節電offgridhouse今から数ヶ月前の2016年4月1日、いわゆる「電力小売自由化」がスタートしたことは読者の皆様もご承知のことと思います。 携帯料金やガス代とのセット割引など、いろんな形で電気の販売を開始した新電力(通称PPS)に乗り換えられた方もいらっしゃると思います。 12月9日の日経新聞記事で、11月末次点で234万世帯がいずれかの新電力に切り替えたという発表がありました。 とは言えこの新電力、登録だけなら誰でも可能ということで、約1,000の事業者が名乗りを上げています。 しかしながら、電力契約事業を行うためには小売電気事業者としての登録も必要となり、 2016年12月12日現在で372事業者(大手電力会社10社含む)が資源エネルギー庁のホームページに掲載されています。 業者的な立場で見ていますと、事業者として登録はしてみたものの、なかなか簡単にはいかないというのが実情のようです。 PPS(新電力)の現状 実は電力小売りの全面自由化が始まる1ヶ月前の3月、日本ロジテックという会社が新電力事業を撤退したという話が話題となりました。 ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、日本ロジテックは新電力として2010年から事業を開始し、 新電力の中でもシェア5位、全国で6,000件の顧客を抱えていたいわば「大手」です。 撤退の原因としては、自社発電設備を持っていなかったため、安く電気を売るために他から調達しなければならなかったこととされています。 売上としては2015年3月期に550億円合ったにも関わらず、調達に際しての資金繰りが悪化したために撤退を余儀なくされたそうです。 今回の記事では、新電力のビジネスにおいて、その利益構造がどうなっているか?何が障壁となっているのか?ということについて紐解いてみたく思います。 ちょっと内容が難しく、長くなりそうですので数回に分けてご説明したく思います。 ではまず、新電力はどうやって儲けているの?ということに着目してみます。 その前に…新電力の売り物は「電気」です。どのように電気を調達するか?によって、大きく4つに分類できます。   PPS(新電力)の電気の調達方法 ①自家発電余剰電力を購入する ⇒大規模工場などが持っている自家発電の余剰電力を購入し供給するタイプ ②卸電気事業者からの供給 ⇒火力発電所などから電気を調達 ③自社発電システムからの供給 ⇒太陽光発電や風力発電など、自社で所有している発電所から電気を供給 ④卸電力取引所(通称:JEPX)からの調達 ⇒電力市場から調達   新電力の登録に際しては、どうやって電気を調達するか?を明記する必要がありますので、 自社発電所を持っていないような企業は④の市場からの調達を選択することが出来るわけですが、 300社以上の競合が存在する中で市場からの調達だけでは蹴落とされてしまうことは自明の理でしょう。 やはり、自社で発電所を所有している企業であったり、卸電気事業者とのパイプを持っている企業が有利な構造となっています。 いずれの調達方法を選択するにせよ、かかった調達コストに対しては、国の定めにより費用負担調整機関という公的機関からの交付金が新電力に対して支払われ、 結果的に安価な仕入れが可能になります。 太陽光発電システムで発電した電気は売電することが出来ますよね。 太陽光発電システムなどの発電設備を所有している人をIPP=Independent Power Producer(独立系発電事業者、または卸電力事業者)と呼びます。   2016年度の住宅用の買取単価は31円/kWh(出力制御対応義務ありのエリアは33円/kWh)ですので、 例えば東京電力などの「一般電気事業者」に対して売電できます。その対価として31円/kWhが支払われます。 東京電力は、消費者から徴収した賦課金を一度、費用負担調整機関に納付し、買取費用の交付を受けます。 この際、「回避可能費用」が差し引かれた金額が支払われることになります。 回避可能費用とは、一言でいうならば「電気を作り出すための原価」です。 例えばAという会社が100kWhの電気を作ってくれたとします。 その電気を買い取ることで、本来自分たちで作らなければならなかった100kWhの電気を作ることを回避できるわけです。 ですので、その分だけは負担しますよ、ということで差し引かれるわけですね。   一般社団法人低炭素投資促進機構によると、2016年の12月時点での東京電力の回避可能費用は7.74円/kWhですので、 31円/kWh-7.74円/kWh=23.26円/kWhが戻ってきます。 つまり、実質7.74円/kWhの負担で電気を調達できることになります。 これだけ見ると、「相当儲けている?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、新電力が負担するコストにも着目しなければなりません。 そこに登場するのが「託送料金」や「インバランス料金」と呼ばれる費用です。   次回は、新電力が負担するコストについて触れてみたく思います。     (記:田中圭亮)-再生可能エネルギーの総合情報サイト-