郁実が購入したのは「Blueberry Pi」というシングルボードコンピュータで、言わばキーボードやモニタが付属していないパソコンだ。IoT(Internet of Things)、つまり「モノのインターネット化」を気軽に始められるアイテムとして注目されるパソコンで、OrganicBerry Piなどという収まりの悪い名称ではない。
 腹立たしい気持ちになりながらも、写真を撮った。SNSに投稿して、購入したサイトも晒してやろうと、陰湿な復讐をシミュレーションする。安いパソコンだと言われているBlueberry Piよりもほんの少し安かったが、高校生の郁実が小遣いで買うには高価だった。前にもBlueberry Piを買ったことがあるのに、何故同じショップを使わなかったのだろうと、自身の愚かさに自嘲もする。
 腹立たしいながらも、この偽物がどういう物なのかという興味はあった。
 淡い青紫色の箱を開くと、欲しかったBlueberry Piとよく似た、基板が剥き出しのシングルボードコンピュータが出てきた。CPUやSDカードスロット、電子部品に簡単に繋げるGPIOなども同じ場所に並んでいる。
 だが一つ、大きな違いがあった。
 電源ケーブルを挿す穴と基板を挟んで対角線に位置する場所に、懐中電灯の口のような筒が付いている。中は青いLEDで、懐中電灯そのものだ。電源の横には黒いスイッチがあり、指の腹で確実に押せそうな大きさは小さなパソコンでは巨大に見える。
 自分でパーツをつけて何かを作るための掌サイズのパソコンを、LED懐中電灯と兼用できて喜ぶ者がどこにいるのだろう。
 OrganicBerry Piが、Blueberry Piと同じようにパソコンとして動くようにはとても見えなかった。きっとただのLEDライトだ。それすら動作しないかもしれない。
 がっかりして肩を落とした郁実は、OrganicBerry PiをBlueberry Piとして売っていたショップサイトをスマホで開こうとした。だが、確かに確認したはずの「ご注文ありがとうございます」「発送のお知らせ」といったメールが見当たらず、そこからリンクを辿ろうとしていたためWEBショップを見つけられない。間違えて削除してしまったのだろうか。
 パソコンで注文したので、パソコンを起動した。ブラウザの閲覧履歴に残っているだろう。しかし、それらしいサイトが見当たらない。ぼんやり覚えているショップ名で改めてネット検索しても、購入したサイトが見つからない。
 コンコンと窓に何かが当たる音がした。風で枝か何かが当たったか、カラスが落としたか。それとも子供が小石でも投げたのか。
 無視してパソコンでショップを探していると、またコンコンと窓ガラスが鳴った。
「郁実君、開けて!」
 女の声で名前を呼ばれたので、驚くままに振り向いてしまった。
 ここは二階だ。ベランダに現れる女なんて、この世のものでないに決まっているのに。

 

(記:o-qoo)

 

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