我々は、過去にバイオガス事業についてフィージビリティスタディを行った経験がある。
SIとしてプラント建設を行った経験や、畜産業界へのつながりといった我々の経歴やノウハウが生かせることや、
一部の限られたメーカーによる寡占化状態となっているような状態から、我々が参入することで大きくコスト構造を変え、
本邦への導入スピードを上げられる可能性を感じたためだ。
もちろん、畜産業界において糞尿の処理や臭気の問題の解消や、肥料原料の大部分が輸入に占められているため、
バイオガスプラント導入とその副産物の発生を増やすことにより、原料輸入量を削減し、国富の海外流出を防ぐことなどの点で
社会的な意義も非常にあると考えたためである。掲げたテーマにあるように今回は踏み出さなかった理由をレポートしてみたい。

PB182007

①設置コストの問題

採算を取るために発電機メーカーやSI会社の推奨する畜産業のサイズを調査したところ、
50-60kWといった大規模とは言えないプラントでもその原料の確保という点では少なくとも300頭といった経営規模の酪農家でないと
売電と副産物販売で投資を回収することが難しいことが明らかになった。これだけで対象農家は非常に限られてしまう。
発電機サイズのラインアップがあまりない中で、これより小さいプラントを建設しようとしてもこれに近い金額がかかってしまうとすると、
大規模農家を除くと導入は困難であろう、という結論になり易い。
ちなみに、この、50-60kWといったプラントを導入するには少なくとも2億円程度が必要とされていた。

メーカーによっては採算を合わせるには250-300kW規模のプラントが必要とするところもあった。
設計や発電機をはじめとした機器類は欧州からの輸入がほとんどで、
市場が顕在化していなかった国産の設備は寧ろ割高で機器の選択の余地が少ないことも問題。
同時に代替する機器の輸入など、メンテナンスコストもそれなりにかかるであろうことが予見された。
設備の設計とタンクの部品や発電機等の機器をそれぞれ購入し、
地元の建設業社に安く施工を発注し投資総額を下げ、運営している大規模養豚家は発電事業でもかなり儲けており、
施工コストの圧縮に関しては工夫次第となることは把握した。

②市場の問題

一般に良く知られているようにバイオガスの導入状況では北海道が圧倒的に多い。
その理由の一つとして、これまでに本州以南と比較し糞尿の堆肥化等の設備投資が今まで進んでいなかったことが挙げられる。
隣近所からの距離が比較的離れていることもあり、比較的ルーズな対応でも許される部分があったのであろう。
近年、その対応が厳格になるにつれなんらかの処理施設の新設が求められたこともあり、
一般的な堆肥施設を飛び越えてバイオガスプラントの導入が検討されたのであろう。
本州以南は堆肥施設の整備等も進んでおり、バイオガスプラント投資は、既存施設を無駄にすることにもつながるため、導入しづらい部分はあるようだ。
とはいえ、養鶏(採卵)を始め、糞尿の処理のキャパシティが事業規模のボトルネックになっている業界もあり、
処理コストとして受け入れ可能な潜在ユーザーもいるのではと思われる。
養鶏はその糞尿に水分が少ないためにバイオガス生産には向かないが、発酵技術の進展によっては大きな市場が開ける可能性もあるだろう。

③副産物の処理の問題

糞尿をメタン発酵させた後、副産物として“消化液”が残る。これは堆肥と比較し臭気も少ない、
窒素・リン酸・カリが含まれる良い有機肥料として使用出来るが、施肥のための機材が必要なことや、
施肥出来るのが春秋のみのためその時期に向けて少なくとも半年分の液肥をストックするタンクが必要となること、
施肥のための非常に広い農地を消化液の提供先として確保することが必要なこと、消化液の使用を受け入れてくれた畑に施肥する際も、
消化液に色がついているために周囲からのクレームになり易い等もハードルがある。
仮に河川に流せるように消化液の処理施設に投資をしても、ただでさえ河川の規模によっては放流が認められていない上に、
やはり色がついているために近隣の認証を得難い状況となっている。非常に根気よくバイオガスの導入に努力されている、
ある外国メーカーが言う通り、地域全体の肥料の購入量を減らし、地域農家を豊かにすることを目標に置く等、
地域を巻き込んだアプローチにすることにより、バイオガス事業の価値を上げることが遠回りに見えるが最善かもしれない。

PB171946

④事業計画の問題

当初の事業プランとして、日本へ進出していない欧州の優秀な機器を必要最小限輸入し、
タンクその他日本で組めるものについてはコストを絞り、設計も出来たら内製化し、
安いパッケージをつくり市場の拡大を目指す、というものだったが、畜産業向け機器の輸入を長くやっている会社が
同様の事業を非常に高いレベルで行っているという事実が確認出来た。
下記の述べるように発電機等での大きなブレイクスルーがない限り、優位なポジションは得れないだろうと判断した。

⑤地元密着企業の優位性

道内での既に設置されているプラントについてはホクレンが主体になり、農家へリースしている形態も多く、
補助金を利用し実質投資額を抑えた上で農家のリスクを排除しているところが実現においての大きなポイントとなっていた。
農協組織や市町村のサポートがあって初めて成り立っているという側面も否めない状況ゆえ、
腰を据えて地元へ入っていき様々な利害関係を調整することがSIとして必要な機能の一つになっている。
前述の発電事業で成功している養豚家の場合は、より効率良くメタン発酵する食品残渣の入手において地元取引企業からの協力を得ている点も大きい。
糞尿だけではエネルギーが小さいところが、グリセリンを始めとしたよりエネルギーが高い食品残渣を混入することでメタン発酵が加速され、
売電量を多く出来る。こうした糞尿以外の食品残渣が安定して入手出来るかどうかもプラントの採算を決める大きな要素であることは把握した。
欧州のシステム設計会社の強みはここで、入手出来る残渣からガスの発生量を予測し、プラントの採算を計算することが出来る。
また、よりガスの発生量を増やすようなプラントのデザインをすることを差別化のポイントとしている。
この点については、彼らと組みノウハウの提供を受けることが、時間を買うということになるのであろう。

⑥技術力の問題

施工以外の設備のコストを劇的に下げる最大ポイントとしては、やはり価格がはる発電機ということになる。
欧州においてもプラント規模がどんどん大きくなるなかで小型〜中型の発電機市場は寡占化が進み、
また国内においても主に下水処理市場向けの商品がある少数ある程度で激しい価格競争に晒されておらず、
高止まりしている状況であった。ディーゼルエンジンを改良して発電機にしている企業もあるが、
我々がバイオガス業界に参入し差別化を図れるとすれば、まずエンジン開発ということになると思うが、
それにはおそらく多額の投資が必要になる。技術面においての優位性も明確でないままにトライするのは危険と判断した。

100kw

上記のような理由で一旦は事業化を諦めた我々ではあるが、様々なユーザーの意向を伺う中で再び、検討に入る機会はあるのでは、という予感はしている。
発酵は生活に密着した、しかも非常に奥深い重要な技術であるし、会社としても個人としても非常に興味と関心を持っていること、
また日本は発酵の技術力で欧州と劣っているとは思わず、欧州の技術と日本の技術を組み合わせることで大きなアウトプットに繋がる可能性があるのでは、と予見しているためである。
この分野における技術の発展状況と市場の方向性についてはウォッチを続けたい。

 

 

(記:齋藤康弘)

 

 

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1478840793/PB181967_qo0nmw_ddac9o/PB181967_qo0nmw_ddac9o.jpg?_i=AAhttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1478840793/PB181967_qo0nmw_ddac9o/PB181967_qo0nmw_ddac9o.jpg?_i=AAaltenergy発電ecology我々は、過去にバイオガス事業についてフィージビリティスタディを行った経験がある。 SIとしてプラント建設を行った経験や、畜産業界へのつながりといった我々の経歴やノウハウが生かせることや、 一部の限られたメーカーによる寡占化状態となっているような状態から、我々が参入することで大きくコスト構造を変え、 本邦への導入スピードを上げられる可能性を感じたためだ。 もちろん、畜産業界において糞尿の処理や臭気の問題の解消や、肥料原料の大部分が輸入に占められているため、 バイオガスプラント導入とその副産物の発生を増やすことにより、原料輸入量を削減し、国富の海外流出を防ぐことなどの点で 社会的な意義も非常にあると考えたためである。掲げたテーマにあるように今回は踏み出さなかった理由をレポートしてみたい。 ①設置コストの問題 採算を取るために発電機メーカーやSI会社の推奨する畜産業のサイズを調査したところ、 50-60kWといった大規模とは言えないプラントでもその原料の確保という点では少なくとも300頭といった経営規模の酪農家でないと 売電と副産物販売で投資を回収することが難しいことが明らかになった。これだけで対象農家は非常に限られてしまう。 発電機サイズのラインアップがあまりない中で、これより小さいプラントを建設しようとしてもこれに近い金額がかかってしまうとすると、 大規模農家を除くと導入は困難であろう、という結論になり易い。 ちなみに、この、50-60kWといったプラントを導入するには少なくとも2億円程度が必要とされていた。 メーカーによっては採算を合わせるには250-300kW規模のプラントが必要とするところもあった。 設計や発電機をはじめとした機器類は欧州からの輸入がほとんどで、 市場が顕在化していなかった国産の設備は寧ろ割高で機器の選択の余地が少ないことも問題。 同時に代替する機器の輸入など、メンテナンスコストもそれなりにかかるであろうことが予見された。 設備の設計とタンクの部品や発電機等の機器をそれぞれ購入し、 地元の建設業社に安く施工を発注し投資総額を下げ、運営している大規模養豚家は発電事業でもかなり儲けており、 施工コストの圧縮に関しては工夫次第となることは把握した。 ②市場の問題 一般に良く知られているようにバイオガスの導入状況では北海道が圧倒的に多い。 その理由の一つとして、これまでに本州以南と比較し糞尿の堆肥化等の設備投資が今まで進んでいなかったことが挙げられる。 隣近所からの距離が比較的離れていることもあり、比較的ルーズな対応でも許される部分があったのであろう。 近年、その対応が厳格になるにつれなんらかの処理施設の新設が求められたこともあり、 一般的な堆肥施設を飛び越えてバイオガスプラントの導入が検討されたのであろう。 本州以南は堆肥施設の整備等も進んでおり、バイオガスプラント投資は、既存施設を無駄にすることにもつながるため、導入しづらい部分はあるようだ。 とはいえ、養鶏(採卵)を始め、糞尿の処理のキャパシティが事業規模のボトルネックになっている業界もあり、 処理コストとして受け入れ可能な潜在ユーザーもいるのではと思われる。 養鶏はその糞尿に水分が少ないためにバイオガス生産には向かないが、発酵技術の進展によっては大きな市場が開ける可能性もあるだろう。 ③副産物の処理の問題 糞尿をメタン発酵させた後、副産物として“消化液”が残る。これは堆肥と比較し臭気も少ない、 窒素・リン酸・カリが含まれる良い有機肥料として使用出来るが、施肥のための機材が必要なことや、 施肥出来るのが春秋のみのためその時期に向けて少なくとも半年分の液肥をストックするタンクが必要となること、 施肥のための非常に広い農地を消化液の提供先として確保することが必要なこと、消化液の使用を受け入れてくれた畑に施肥する際も、 消化液に色がついているために周囲からのクレームになり易い等もハードルがある。 仮に河川に流せるように消化液の処理施設に投資をしても、ただでさえ河川の規模によっては放流が認められていない上に、 やはり色がついているために近隣の認証を得難い状況となっている。非常に根気よくバイオガスの導入に努力されている、 ある外国メーカーが言う通り、地域全体の肥料の購入量を減らし、地域農家を豊かにすることを目標に置く等、 地域を巻き込んだアプローチにすることにより、バイオガス事業の価値を上げることが遠回りに見えるが最善かもしれない。 ④事業計画の問題 当初の事業プランとして、日本へ進出していない欧州の優秀な機器を必要最小限輸入し、 タンクその他日本で組めるものについてはコストを絞り、設計も出来たら内製化し、 安いパッケージをつくり市場の拡大を目指す、というものだったが、畜産業向け機器の輸入を長くやっている会社が 同様の事業を非常に高いレベルで行っているという事実が確認出来た。 下記の述べるように発電機等での大きなブレイクスルーがない限り、優位なポジションは得れないだろうと判断した。 ⑤地元密着企業の優位性 道内での既に設置されているプラントについてはホクレンが主体になり、農家へリースしている形態も多く、 補助金を利用し実質投資額を抑えた上で農家のリスクを排除しているところが実現においての大きなポイントとなっていた。 農協組織や市町村のサポートがあって初めて成り立っているという側面も否めない状況ゆえ、 腰を据えて地元へ入っていき様々な利害関係を調整することがSIとして必要な機能の一つになっている。 前述の発電事業で成功している養豚家の場合は、より効率良くメタン発酵する食品残渣の入手において地元取引企業からの協力を得ている点も大きい。 糞尿だけではエネルギーが小さいところが、グリセリンを始めとしたよりエネルギーが高い食品残渣を混入することでメタン発酵が加速され、 売電量を多く出来る。こうした糞尿以外の食品残渣が安定して入手出来るかどうかもプラントの採算を決める大きな要素であることは把握した。 欧州のシステム設計会社の強みはここで、入手出来る残渣からガスの発生量を予測し、プラントの採算を計算することが出来る。 また、よりガスの発生量を増やすようなプラントのデザインをすることを差別化のポイントとしている。 この点については、彼らと組みノウハウの提供を受けることが、時間を買うということになるのであろう。 ⑥技術力の問題 施工以外の設備のコストを劇的に下げる最大ポイントとしては、やはり価格がはる発電機ということになる。 欧州においてもプラント規模がどんどん大きくなるなかで小型〜中型の発電機市場は寡占化が進み、 また国内においても主に下水処理市場向けの商品がある少数ある程度で激しい価格競争に晒されておらず、 高止まりしている状況であった。ディーゼルエンジンを改良して発電機にしている企業もあるが、 我々がバイオガス業界に参入し差別化を図れるとすれば、まずエンジン開発ということになると思うが、 それにはおそらく多額の投資が必要になる。技術面においての優位性も明確でないままにトライするのは危険と判断した。 上記のような理由で一旦は事業化を諦めた我々ではあるが、様々なユーザーの意向を伺う中で再び、検討に入る機会はあるのでは、という予感はしている。 発酵は生活に密着した、しかも非常に奥深い重要な技術であるし、会社としても個人としても非常に興味と関心を持っていること、 また日本は発酵の技術力で欧州と劣っているとは思わず、欧州の技術と日本の技術を組み合わせることで大きなアウトプットに繋がる可能性があるのでは、と予見しているためである。 この分野における技術の発展状況と市場の方向性についてはウォッチを続けたい。     (記:齋藤康弘)    -再生可能エネルギーの総合情報サイト-