どんな形で取引されているの?


 では環境価値はどのような形で取引されているのでしょうか?
国内で取引されている証書は「グリーン電力証書」「J-クレジット」「非化石証書」の3つがあります。
どれぐらいの価格で取引されているのかも踏まえ、それぞれのポイントや違いを見ていきたいと思います。


1. グリーン電力証書

 民間企業であるJQA(日本品質機構)が認証機関であり、再生可能エネルギーで作られた電気を電気そのものの価値と環境価値とに分離し、環境価値の部分を証書として発行して売買可能としたものです。
この制度は「再生可能エネルギーの普及・拡大」を目的としています。前述のように再エネ設備を保有していない企業は、このグリーン電力証書を購入することで自ら再エネ設備で発電した電気を使用していると見なすことが可能となります。

 他の2つの証書との違いは、供給者サイドのハードルの高さ故に絶対的な供給量が少ないことが挙げられます。どれぐらいの電力を消費したのかということを計量するために検定付メーターを使用して計測しなくてはなりません。今後については太陽光発電における自家消費マーケットの拡大から、認証量は増加していくものと予想されています。2017年度単年での認証量は3.71億kWhでした。取引単価を公開している企業はないのですが、市場では概ね3円~4円/kWh程度で取引されているようです。


2. J-クレジット

 J-クレジットについては、もともと環境省が母体となっていた「国内クレジット」と環境省および農水省が母体となっていた「J-VER」という2つのクレジットが2013年に統合されてできました。
グリーン電力証書と違い、再エネ設備の導入だけでなく、省エネ設備の導入や森林管理によって生まれたCO2排出量の削減分などをクレジット化して取引できるようにしたものです。
CO2排出量削減ということを目的としていますので、取引量の単位は「円/t-CO2」となります。

 他2つとの大きな違いは、カーボン・オフセットも含むので取引量が多いということでしょう。2018年度単年では91万t-CO2、換算すると約18億kWhですのでグリーン電力証書の5倍ということになります。
「再エネ由来」と「それ以外の省エネ」に分類され、再エネ由来の価格が近年上昇傾向にあります。3~4年前には500円/ton-CO2(0.25円/kWh)だったのが現在では1800円/ton-CO2(0.9円/kWh)で取引されているようです。


3. 非化石証書(FIT/非FIT)

 非化石電源比率を2030年までに44%に高めること、および再エネ賦課金の国民負担を軽減することを目的として、2018年よりスタートした制度です。資源エネルギー庁が管轄しています。

 他の2つの証書との大きな違いはその購入ルートで、電力会社を介してのみ購入することが出来るという点が挙げられます。これはFIT・非FIT問わず、非化石価値取引市場でのオークションに参加できるのが電力会社のみということで、彼らが買い取った証書は再エネ電力メニューとして通常の電力+αの価格で販売されるということになります。

 例えば先般、中部電力がCO2フリー電気として通常の電気料金単価+4円/kWhで販売を開始すると発表しました。当面は彼らが持つ水力発電所及びFITが失効した太陽光発電からの卒FIT電力を充当するとのことで、非FIT非化石証書を利用する形です。

 FIT・非FIT電力がベースとなるため、そのポテンシャルは800億kWhとも言われているそうですが、実際に市場で取引されたのは2018年度で3,700万kWhのみでした。まだ取引市場が新しいということと、最低落札価格が1.3円/kWh(上限は4.0円/kWh)と決まっていることが原因ではないかと言われています。

 余談ですが、原子力発電や大型水力発電を非FIT電源として取り扱う方向性が国際的に問題視されています。確かにCO2を排出しないという点では非化石に該当はしますが、生態系への影響や原発を推進することに繋がりかねないという点が争点となっています。


環境価値の今後


 今後のすべてのエネルギーが、再生可能エネルギーによって供給される未来が来れば、すべて環境価値のあるエネルギーということになりますから、環境価値のやり取りという概念自体がなくなるのかもしれません。ただし、省エネ法が原油換算と考え方を持っていることに表れていたりしますが、熱という部分においては電力は効率が悪い部分がありますので、すべてのエネルギーが再生可能エネルギーによって賄えるという時代は、もう少し先なのかもしれません。

 ただし、既に注目を集めている通りに、環境にやさしいというエネルギーを使うということは、人道的なスタンスはもちろん、某会社の社長が、「環境を意識すべきであるという時代は終わり、環境に配慮をしないと生き残れない。」と表現をされていましたが、ESG投資といわれる資本家に評価をされるという考え方から見ても環境に配慮をせずに企業活動を行うことが許されなくなる時代が来ているのだと思います。


環境価値を奪い合う時代!?


 もし今後、RE100(Renewable Energy 100%)を宣言している会社の様に、再生可能エネルギーを欲しがる企業が今以上に増えて行ったときにどうなるのでしょうか。今はまだ需要と供給のバランスがとれておらず、供給過多の状態ですから非化石証書の入札もほとんど成立していない状態ですが、需要が増え始めたらなかなか手に入れるのが難しいという時代が来るのかもしれません。もちろんその時になって考えるということもあるのかもしれませんが、環境に対しての配慮というスタンスで見ると、対策を考えること自体、早すぎるということはないのだと思います。
 今すぐにでも出来ることから始めるということが、企業には求められるのではないでしょうか。


(記:田中 圭亮)



自家消費、ソーラーグリッドに関してはこちら

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1563239714/No16_1_h8nunq/No16_1_h8nunq.jpg?_i=AAhttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1563239714/No16_1_h8nunq/No16_1_h8nunq.jpg?_i=AAaltenergy法人自家消費連載どんな形で取引されているの?  では環境価値はどのような形で取引されているのでしょうか?国内で取引されている証書は「グリーン電力証書」「J-クレジット」「非化石証書」の3つがあります。どれぐらいの価格で取引されているのかも踏まえ、それぞれのポイントや違いを見ていきたいと思います。 1. グリーン電力証書 民間企業であるJQA(日本品質機構)が認証機関であり、再生可能エネルギーで作られた電気を電気そのものの価値と環境価値とに分離し、環境価値の部分を証書として発行して売買可能としたものです。この制度は「再生可能エネルギーの普及・拡大」を目的としています。前述のように再エネ設備を保有していない企業は、このグリーン電力証書を購入することで自ら再エネ設備で発電した電気を使用していると見なすことが可能となります。 他の2つの証書との違いは、供給者サイドのハードルの高さ故に絶対的な供給量が少ないことが挙げられます。どれぐらいの電力を消費したのかということを計量するために検定付メーターを使用して計測しなくてはなりません。今後については太陽光発電における自家消費マーケットの拡大から、認証量は増加していくものと予想されています。2017年度単年での認証量は3.71億kWhでした。取引単価を公開している企業はないのですが、市場では概ね3円~4円/kWh程度で取引されているようです。 2. J-クレジット J-クレジットについては、もともと環境省が母体となっていた「国内クレジット」と環境省および農水省が母体となっていた「J-VER」という2つのクレジットが2013年に統合されてできました。グリーン電力証書と違い、再エネ設備の導入だけでなく、省エネ設備の導入や森林管理によって生まれたCO2排出量の削減分などをクレジット化して取引できるようにしたものです。CO2排出量削減ということを目的としていますので、取引量の単位は「円/t-CO2」となります。 他2つとの大きな違いは、カーボン・オフセットも含むので取引量が多いということでしょう。2018年度単年では91万t-CO2、換算すると約18億kWhですのでグリーン電力証書の5倍ということになります。「再エネ由来」と「それ以外の省エネ」に分類され、再エネ由来の価格が近年上昇傾向にあります。3~4年前には500円/ton-CO2(0.25円/kWh)だったのが現在では1800円/ton-CO2(0.9円/kWh)で取引されているようです。 3. 非化石証書(FIT/非FIT) 非化石電源比率を2030年までに44%に高めること、および再エネ賦課金の国民負担を軽減することを目的として、2018年よりスタートした制度です。資源エネルギー庁が管轄しています。 他の2つの証書との大きな違いはその購入ルートで、電力会社を介してのみ購入することが出来るという点が挙げられます。これはFIT・非FIT問わず、非化石価値取引市場でのオークションに参加できるのが電力会社のみということで、彼らが買い取った証書は再エネ電力メニューとして通常の電力+αの価格で販売されるということになります。 例えば先般、中部電力がCO2フリー電気として通常の電気料金単価+4円/kWhで販売を開始すると発表しました。当面は彼らが持つ水力発電所及びFITが失効した太陽光発電からの卒FIT電力を充当するとのことで、非FIT非化石証書を利用する形です。 FIT・非FIT電力がベースとなるため、そのポテンシャルは800億kWhとも言われているそうですが、実際に市場で取引されたのは2018年度で3,700万kWhのみでした。まだ取引市場が新しいということと、最低落札価格が1.3円/kWh(上限は4.0円/kWh)と決まっていることが原因ではないかと言われています。 余談ですが、原子力発電や大型水力発電を非FIT電源として取り扱う方向性が国際的に問題視されています。確かにCO2を排出しないという点では非化石に該当はしますが、生態系への影響や原発を推進することに繋がりかねないという点が争点となっています。 環境価値の今後  今後のすべてのエネルギーが、再生可能エネルギーによって供給される未来が来れば、すべて環境価値のあるエネルギーということになりますから、環境価値のやり取りという概念自体がなくなるのかもしれません。ただし、省エネ法が原油換算と考え方を持っていることに表れていたりしますが、熱という部分においては電力は効率が悪い部分がありますので、すべてのエネルギーが再生可能エネルギーによって賄えるという時代は、もう少し先なのかもしれません。 ただし、既に注目を集めている通りに、環境にやさしいというエネルギーを使うということは、人道的なスタンスはもちろん、某会社の社長が、「環境を意識すべきであるという時代は終わり、環境に配慮をしないと生き残れない。」と表現をされていましたが、ESG投資といわれる資本家に評価をされるという考え方から見ても環境に配慮をせずに企業活動を行うことが許されなくなる時代が来ているのだと思います。 環境価値を奪い合う時代!?  もし今後、RE100(Renewable Energy 100%)を宣言している会社の様に、再生可能エネルギーを欲しがる企業が今以上に増えて行ったときにどうなるのでしょうか。今はまだ需要と供給のバランスがとれておらず、供給過多の状態ですから非化石証書の入札もほとんど成立していない状態ですが、需要が増え始めたらなかなか手に入れるのが難しいという時代が来るのかもしれません。もちろんその時になって考えるということもあるのかもしれませんが、環境に対しての配慮というスタンスで見ると、対策を考えること自体、早すぎるということはないのだと思います。 今すぐにでも出来ることから始めるということが、企業には求められるのではないでしょうか。 (記:田中 圭亮) 自家消費、ソーラーグリッドに関してはこちら-再生可能エネルギーの総合情報サイト-