公平性に問題あり?

 FIT証書には、原価が存在します。FIT証書の取引量980億kWh分の価値は、21年度で2.7兆円(①買取費用:3.8兆円から②回避可能費用:1.1兆円を控除した金額)ですので約28円/kWh(=2.7兆円÷980億kWh)が原価ということになります。

経済産業省HPより抜粋

 では、このFIT証書はどこから仕入れているのでしょうか? FIT制度において再エネ発電設備の所有者に支払われる買取費用は、多くの部分が再エネ賦課金により賄われています。そしてこれは、電気を使う全需要家が負担をしています。つまり、FIT電力が持つ再エネ価値は特定の個人や団体のものではなく、全需要家のものといえます。

 全需要家の所有である28円/kWhの再エネ価値に対して、0.1円/kWhという再販価格は果たして妥当なのか。その評価はいったん置いておくとして、再販には一定のメリットがあります。

 全需要家に還元される公平なプラスの効果として、買い取られた再エネ価値は買取費用の原資になるため、再エネ賦課金全体を押し下げてくれるのです。仮に再エネ価値が0.1円/kWhで取引された場合、全需要家が享受できる経済的メリットは0.01円/kWh(=(取引量980億kWh×0.1円/kWh)÷8036億kWh)になる計算です。

 ところが、本当の意味でこの再販価格の妥当性が明らかになるのは、例えば導入の議論が続く炭素税など、何らかの形で今後カーボンプライシングが今より直接的に需要家に関わってくるようになった場合です。 仮にkWhあたり1円の炭素税が課されるとすれば、再エネ価値を0.1円で買い取った需要家は10倍の益を得ます。その一方で、そういった取引に参加しない他の需要家は0.01円の得しか得ていないわけですから、100倍の損をする計算になります。

 元はといえばみんなで費用を出し合って支えているFIT由来の再エネ価値を、一部の需要家のみが安く利用できることは、公平性の観点から制度上問題がないのかどうか。やや疑問が残ります。

追加性がないのは

 しかし私が最も問題だと考えていることは、こういったFIT証書には「再エネの追加性」がない、ということです。

 追加性とは、例えば、文字通り企業による自社購入やPPAサービスの利用等により、再エネ設備が追加される、増えていくことです。

 気候変動枠組条約の締約国会議(COP)では「追加的」「追加性」という表現がしばしば用いられていおり、従来の枠組みの転用や流用でなく、再エネを追加しなければいけないという意味で語られています。

 日本では今年の10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定されましたが、2030年時点の電源構成のうち再エネ比率36~38%が目標とされています。現在の比率:約18%を踏まえると、今までの2倍以上に「追加」しなければ達成できない水準です。

 しかし「再エネ価値取引市場」は、取引の当事者ではない第三者が設置した再エネ設備に由来する再エネ価値の再販市場であるため、FIT証書を取得してもそこに追加性は認められないことになります。

 実際に、再エネ電力プランや環境クレジットを利用してすでにRE100を達成しているGAFAなどの企業が、再エネのPPA契約をどの企業よりも先んじてやっています。数ヶ月前の報道にもありましたが、例えばAmazonの日本における風力発電や太陽光発電の報道の意味を、日本企業は考えざるを得ず、結局は追随することになるのではないかと思います。

Top signers of corporate PPA

 ただ当面は、「再エネ価値取引市場」で取引されるFIT証書が仮に安価でかつそれが継続する場合、追加性のある再エネ導入にインセンティブが働きづらく、パイの奪い合いだけがしばらく続く可能性があります。 

 企業にとってはこの方法でRE100の達成ができたとしても、日本全体として見るとかえってこれは、2030年まで残り9年での「再エネ比率38%」達成のブレーキになりかねないわけです。

 再エネ価値取引市場でのFIT証書購入は、短期的な解決としては有効かもしれませんが、単体では根本的な治療にはなりません。再エネを追加していく行動こそが本命の脱炭素対策であり、これに強いインセンティブをもたせる制度を作れるか、日本の本気度が試されます。

記:佐藤 誉世夫

*******************************************************

最後までご覧いただきありがとうございました。
今後ともEneLeaksをご愛顧下さいますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1636938674/1892572_m1_otmr4f/1892572_m1_otmr4f.jpg?_i=AAhttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1636938674/1892572_m1_otmr4f/1892572_m1_otmr4f.jpg?_i=AAaltenergy法人再エネ価値取引市場,産業用太陽光発電公平性に問題あり?  FIT証書には、原価が存在します。FIT証書の取引量980億kWh分の価値は、21年度で2.7兆円(①買取費用:3.8兆円から②回避可能費用:1.1兆円を控除した金額)ですので約28円/kWh(=2.7兆円÷980億kWh)が原価ということになります。 経済産業省HPより抜粋  では、このFIT証書はどこから仕入れているのでしょうか? FIT制度において再エネ発電設備の所有者に支払われる買取費用は、多くの部分が再エネ賦課金により賄われています。そしてこれは、電気を使う全需要家が負担をしています。つまり、FIT電力が持つ再エネ価値は特定の個人や団体のものではなく、全需要家のものといえます。  全需要家の所有である28円/kWhの再エネ価値に対して、0.1円/kWhという再販価格は果たして妥当なのか。その評価はいったん置いておくとして、再販には一定のメリットがあります。  全需要家に還元される公平なプラスの効果として、買い取られた再エネ価値は買取費用の原資になるため、再エネ賦課金全体を押し下げてくれるのです。仮に再エネ価値が0.1円/kWhで取引された場合、全需要家が享受できる経済的メリットは0.01円/kWh(=(取引量980億kWh×0.1円/kWh)÷8036億kWh)になる計算です。  ところが、本当の意味でこの再販価格の妥当性が明らかになるのは、例えば導入の議論が続く炭素税など、何らかの形で今後カーボンプライシングが今より直接的に需要家に関わってくるようになった場合です。 仮にkWhあたり1円の炭素税が課されるとすれば、再エネ価値を0.1円で買い取った需要家は10倍の益を得ます。その一方で、そういった取引に参加しない他の需要家は0.01円の得しか得ていないわけですから、100倍の損をする計算になります。  元はといえばみんなで費用を出し合って支えているFIT由来の再エネ価値を、一部の需要家のみが安く利用できることは、公平性の観点から制度上問題がないのかどうか。やや疑問が残ります。 追加性がないのは  しかし私が最も問題だと考えていることは、こういったFIT証書には「再エネの追加性」がない、ということです。  追加性とは、例えば、文字通り企業による自社購入やPPAサービスの利用等により、再エネ設備が追加される、増えていくことです。  気候変動枠組条約の締約国会議(COP)では「追加的」「追加性」という表現がしばしば用いられていおり、従来の枠組みの転用や流用でなく、再エネを追加しなければいけないという意味で語られています。  日本では今年の10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定されましたが、2030年時点の電源構成のうち再エネ比率36~38%が目標とされています。現在の比率:約18%を踏まえると、今までの2倍以上に「追加」しなければ達成できない水準です。  しかし「再エネ価値取引市場」は、取引の当事者ではない第三者が設置した再エネ設備に由来する再エネ価値の再販市場であるため、FIT証書を取得してもそこに追加性は認められないことになります。  実際に、再エネ電力プランや環境クレジットを利用してすでにRE100を達成しているGAFAなどの企業が、再エネのPPA契約をどの企業よりも先んじてやっています。数ヶ月前の報道にもありましたが、例えばAmazonの日本における風力発電や太陽光発電の報道の意味を、日本企業は考えざるを得ず、結局は追随することになるのではないかと思います。 Top signers of corporate PPA  ただ当面は、「再エネ価値取引市場」で取引されるFIT証書が仮に安価でかつそれが継続する場合、追加性のある再エネ導入にインセンティブが働きづらく、パイの奪い合いだけがしばらく続く可能性があります。   企業にとってはこの方法でRE100の達成ができたとしても、日本全体として見るとかえってこれは、2030年まで残り9年での「再エネ比率38%」達成のブレーキになりかねないわけです。  再エネ価値取引市場でのFIT証書購入は、短期的な解決としては有効かもしれませんが、単体では根本的な治療にはなりません。再エネを追加していく行動こそが本命の脱炭素対策であり、これに強いインセンティブをもたせる制度を作れるか、日本の本気度が試されます。 記:佐藤 誉世夫 ******************************************************* 最後までご覧いただきありがとうございました。今後ともEneLeaksをご愛顧下さいますよう何卒宜しくお願い申し上げます。-再生可能エネルギーの総合情報サイト-