市場価格を反映した計算式

小売全面自由化前は、不足インバランス分は50円/kWhを支払い、余剰インバランス分はタダで引き取られるという、単純にペナルティとしての役割が明確でした。
しかし、小売全面自由化以降は、このインバランスも電力であることには違いないのだから、他の電力と同じように市場経済の法則に従ったその時々の価値があるはずだ、という考えが強く入ってきました。
本来であれば、インバランス料金には実需給一致の調整にかかったコストが反映されるべきです。
しかし、そのコストは2021年から「需給調整市場」として取引されることが決まっているため、まだそれを反映させることはできません。そこで、暫定的に卸電力市場での市場価格を利用した下記計算式を設定しました。
・全国の市場価格×α(全国大のインバランス発生状況を示す係数)+β(エリアごとの需給調整コスト)
全国規模で不足インバランスが発生したときは、αは1より大きい係数になり、余剰インバランスとなった時は、1より小さい係数になります。

例えば…
・全国大で不足インバランス発生。
  ↓
・需給のひっ迫により電気の市場価格が高くなる。また、係数αは1より大きくなる。
  ↓
・不足を発生した業者は、高い不足インバランス料金を支払うべき。(→ケースⒶ)
・余剰を供給した業者に対しては、高い余剰インバランス料金を支払える(→ケースⒷ)

それでは、逆のケース。
・全国大で余剰インバランス発生。
  ↓
・供給過剰で電気の市場価格は下がる。また、係数αは1より小さくなる。
  ↓
・不足を発生させた業者は、低い不足インバランス料金の支払いで許してやろう。(ケースⒸ)
・余剰を発生させた業者は、低い余剰インバランス料金しか払えない。(ケースⒹ)。

強まるペナルティ色

ところが、経産省の見立てはもろくも崩れました。わざとインバランスを発生させる業者が次々と発生したのです。インバランスを発生させたほうが得すると、予見できる状況があったからです。
・ここのところ全国大では余剰インバランス傾向
  ↓
・係数αは1よりも小さくなるので、インバランス料金は市場価格よりも安くなるだろう。
  ↓
・不足が発生する計画を提出。実際に発生した不足分を市場価格より安く「調達」。

逆のケース。
・全国大では、不足インバランスが発生しそう。
  ↓
・係数αは1よりも大きくなるので、インバランス料金は市場価格よりも高くなるだろう。
  ↓
・余剰が発生する計画を提出。余剰電力を市場価格よりも高く「売却」。

インバランス料金02
例①②:数日間にわたりベースとなる値以上に計画をほとんど計上しない事業者(北陸エリア)
例③:数日間にわたり、常に需要計画を実績より大きくし、余剰インバランスを恒常的に発生させる 事業者(東京エリア)
例④:スポット市場で買える最小取引単位の倍数による機械的な需要計画を提出し、結果的に常に余剰インバランスとして計上している事業者(東京エリア)


参照:資源エネルギー庁「インバランス料金分布と個社のインバランス発生状況 北陸エリア、東京エリア」『インバランス料金の当面の見直しについて』(2017年6月6日)

こうして、前述のケースⒷのような積極的な意味でのインバランス制度利用の余地を残していたところ、見事に悪用されてしまったのでした。
その後のインバランス料金に対する度重なる改正は、すべてペナルティとしての意味合いを強める内容になっています。不足・余剰にかかわらず、とにかく「インバランスを発生させた業者にはペナルティを課す」という規制の方向が強まったと言えます。

インバランス料金のジレンマ

一方で、インバランスはある程度不可抗力的に発生する要素も多分にあり、かつインバランス料金が、特に新規の小売電気事業者の参入について過度な負担となってはならない、自由化の妨げになってはならないという点も考慮すべきポイントとしてあります。
市場経済による競争原理を働かせ、さらなるエネルギーコストの低減を図ることは、ひいては日本の産業界全体の国際競争力を底上げすることにもつながるため、このようなペナルティ色ばかりを強めることにはジレンマがあるのです。
今年の6月から、2021年の「需給調整市場」を前提としたインバランス料金制度の抜本見直しに向けた検討が始まりました。
公共性の高い商品「電力」のマーケットが健全な成長を遂げていくためには、自由市場に任せたいけれども系統安定のためにはどのような規制を設けるか、この押し引きのちょうどよい塩梅がカギとなりそうです。



記:佐藤 誉世夫

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1579055612/869b3779a7edaae92e84f4ca3aba19b7_rhlszj/869b3779a7edaae92e84f4ca3aba19b7_rhlszj.png?_i=AAhttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/images/f_auto,q_auto/v1579055612/869b3779a7edaae92e84f4ca3aba19b7_rhlszj/869b3779a7edaae92e84f4ca3aba19b7_rhlszj.png?_i=AAaltenergy個人噛み砕きシリーズ法人連載市場価格を反映した計算式 小売全面自由化前は、不足インバランス分は50円/kWhを支払い、余剰インバランス分はタダで引き取られるという、単純にペナルティとしての役割が明確でした。しかし、小売全面自由化以降は、このインバランスも電力であることには違いないのだから、他の電力と同じように市場経済の法則に従ったその時々の価値があるはずだ、という考えが強く入ってきました。本来であれば、インバランス料金には実需給一致の調整にかかったコストが反映されるべきです。しかし、そのコストは2021年から「需給調整市場」として取引されることが決まっているため、まだそれを反映させることはできません。そこで、暫定的に卸電力市場での市場価格を利用した下記計算式を設定しました。・全国の市場価格×α(全国大のインバランス発生状況を示す係数)+β(エリアごとの需給調整コスト)全国規模で不足インバランスが発生したときは、αは1より大きい係数になり、余剰インバランスとなった時は、1より小さい係数になります。 例えば…・全国大で不足インバランス発生。  ↓・需給のひっ迫により電気の市場価格が高くなる。また、係数αは1より大きくなる。  ↓・不足を発生した業者は、高い不足インバランス料金を支払うべき。(→ケースⒶ)・余剰を供給した業者に対しては、高い余剰インバランス料金を支払える(→ケースⒷ) それでは、逆のケース。・全国大で余剰インバランス発生。  ↓・供給過剰で電気の市場価格は下がる。また、係数αは1より小さくなる。  ↓・不足を発生させた業者は、低い不足インバランス料金の支払いで許してやろう。(ケースⒸ)・余剰を発生させた業者は、低い余剰インバランス料金しか払えない。(ケースⒹ)。 強まるペナルティ色 ところが、経産省の見立てはもろくも崩れました。わざとインバランスを発生させる業者が次々と発生したのです。インバランスを発生させたほうが得すると、予見できる状況があったからです。・ここのところ全国大では余剰インバランス傾向  ↓・係数αは1よりも小さくなるので、インバランス料金は市場価格よりも安くなるだろう。  ↓・不足が発生する計画を提出。実際に発生した不足分を市場価格より安く「調達」。 逆のケース。・全国大では、不足インバランスが発生しそう。  ↓・係数αは1よりも大きくなるので、インバランス料金は市場価格よりも高くなるだろう。  ↓・余剰が発生する計画を提出。余剰電力を市場価格よりも高く「売却」。 例①②:数日間にわたりベースとなる値以上に計画をほとんど計上しない事業者(北陸エリア) 例③:数日間にわたり、常に需要計画を実績より大きくし、余剰インバランスを恒常的に発生させる 事業者(東京エリア) 例④:スポット市場で買える最小取引単位の倍数による機械的な需要計画を提出し、結果的に常に余剰インバランスとして計上している事業者(東京エリア) 参照:資源エネルギー庁「インバランス料金分布と個社のインバランス発生状況 北陸エリア、東京エリア」『インバランス料金の当面の見直しについて』(2017年6月6日) こうして、前述のケースⒷのような積極的な意味でのインバランス制度利用の余地を残していたところ、見事に悪用されてしまったのでした。その後のインバランス料金に対する度重なる改正は、すべてペナルティとしての意味合いを強める内容になっています。不足・余剰にかかわらず、とにかく「インバランスを発生させた業者にはペナルティを課す」という規制の方向が強まったと言えます。 インバランス料金のジレンマ 一方で、インバランスはある程度不可抗力的に発生する要素も多分にあり、かつインバランス料金が、特に新規の小売電気事業者の参入について過度な負担となってはならない、自由化の妨げになってはならないという点も考慮すべきポイントとしてあります。市場経済による競争原理を働かせ、さらなるエネルギーコストの低減を図ることは、ひいては日本の産業界全体の国際競争力を底上げすることにもつながるため、このようなペナルティ色ばかりを強めることにはジレンマがあるのです。今年の6月から、2021年の「需給調整市場」を前提としたインバランス料金制度の抜本見直しに向けた検討が始まりました。公共性の高い商品「電力」のマーケットが健全な成長を遂げていくためには、自由市場に任せたいけれども系統安定のためにはどのような規制を設けるか、この押し引きのちょうどよい塩梅がカギとなりそうです。 記:佐藤 誉世夫-再生可能エネルギーの総合情報サイト-