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「郁実君、お疲れ様。電気が足りて良かった」
 少し離れて見守っていたひなたが胸を撫で下ろす。前髪が風で揺れても気にしていない。二人でコンビニに買い物にいく途中でフォッシルズに出くわしてしまったのだ。
「よかった、ほんとに……」
 フォッシルズを消去できたことに、郁実は改めて安堵する。これは数少ない、自分が世の中の役に立てることだと思っている。OrganicBerry Piに選ばれた運によるものとはいえ、だからこそ特別だと感じている。
 今まで、そんな経験をしたことがなかった。小学生の頃はいじめられていた。高校生の今は、勉強は普通、運動はできない、男友達は幼馴染みと、挨拶に毛の生えた会話をしても同じグループに入っているわけではないクラスメイトが少しだけだ。他のクラスメイトにはいじめられもせず空気のように扱われているが、迷惑をかけないようにと自分から女子を避けるような素振りを見せれば逆に気持ちが悪いと言われる。そんな「普通」よりもいくらか惨めな男子高校生の郁実の生活における、特別な役割ができた。
 今回も役割を果たせたことに安堵したが、危機的な状況を思い出して冷や汗が出る。初夏の生ぬるい強風では汗も大して冷えない。
「なんかドキドキしてない?」
「うわっ」
 全く鍛えていない胸に触れたひなたの手に、郁実は飛び退いて後ずさった。てのひらは日向のように温かかった。
 太陽光発電が美少女の姿をとったひなたは、ずっと郁実の住むアパートの屋根にいたのだという。OrganicBerry Piに選ばれたことで郁実から姿が見えるようになり、話ができることを喜んでくれた。
 きっと学校での郁実の隠者のような過ごし方など知らないから、親しく話しかけてくれるのだ。止まない夜風が二人の間を隔てる。ポニーテールやミニスカートから伸びた脚が健康的なひなたには、太陽が似合う。
 コンビニへと並んで歩き始めたひなたが、郁実を急がせる。
「早くいこうよ」
「またフォッシルズが出るの?」
「アイスが食べたいの
 形の整った目や口がよく動いて、表情を豊かに変える。
 郁実は少しだけ背の低いひなたの隣に並んだ。整った顔立ちとスタイルの良さは、並んで歩くのに釣り合っているとはとても思えないが、ひなたは普通の人間には姿が見えないから郁実が奇異の目で見られることはなかった。
「私、コンビニ大好き」
「そんなに?」
 郁実としては極力ネットショッピングで買い物を済ませたい。価格も品揃えも効率も良い。
「コンビニは夜中でもずっと明るくてすごいよね。私もあんな風にできたらなあ」
 しかし太陽光発電は太陽が出ている時間にしか発電できない。
「フォッシルズが夜に出るのって、卑怯じゃない?」
 ひなたが口を尖らせる。
「再エネって他にもあるんでしょ」
「あるけどさ。他の子じゃなくて、私が、郁実君の役に立ちたいの!」
「ええと……」
 美少女から示される好意に郁実は目を泳がせた。こんな経験は生まれてこの方初めてなので、どうしたって挙動不審になってしまう。嬉しさよりも、釣り合わないという引け目を感じる。
 他の子、といったのは、ひなたのような存在が他にもいるのだろうか。いてもおかしくはないが。
「バッテリーが、もっと大きいやつがあればいいんだけどね」
「高いんでしょ。無理しなくていいよ」
 ひなたが申し訳なさそうに言った。
「なんでモバイルバッテリーってあんなに高いんだろう」
 パソコンに詳しい郁実にとって、ハードディスクやUSBメモリーなどは、どんどんディスク容量ごとの価格が下がっていくのが常識だ。
 それなのにモバイルバッテリーだけは、いつまで経ってもお得感がない。
「あなたはBMSを知っていますか」
 突然、背後から声が聞こえた。振り向くと、街灯の下に黒い陰が見えた。
「キャッ!」
 ひなたが驚き、郁実に飛びつく。むにゅっと胸の膨らみが腕に当たる。日向に干した蒲団のようなひなたの匂いに、郁実は言葉を失った

 

(記:o-qoo)

 

 

 

再生可能ノベル 柴崎町4丁目の日常-5

 

再生可能ノベル 柴崎町4丁目の日常-1

https://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/image/upload/v1531961462/ln2_6_smoke_black1_acikhh.jpghttps://res.cloudinary.com/hv7dr7rdf/image/upload/c_crop,h_400,w_400,x_0,y_96/h_150,w_150/v1531961462/ln2_6_smoke_black1_acikhh.jpgaltenergy連載ecology          「郁実君、お疲れ様。電気が足りて良かった」  少し離れて見守っていたひなたが胸を撫で下ろす。前髪が風で揺れても気にしていない。二人でコンビニに買い物にいく途中でフォッシルズに出くわしてしまったのだ。 「よかった、ほんとに……」  フォッシルズを消去できたことに、郁実は改めて安堵する。これは数少ない、自分が世の中の役に立てることだと思っている。OrganicBerry Piに選ばれた運によるものとはいえ、だからこそ特別だと感じている。  今まで、そんな経験をしたことがなかった。小学生の頃はいじめられていた。高校生の今は、勉強は普通、運動はできない、男友達は幼馴染みと、挨拶に毛の生えた会話をしても同じグループに入っているわけではないクラスメイトが少しだけだ。他のクラスメイトにはいじめられもせず空気のように扱われているが、迷惑をかけないようにと自分から女子を避けるような素振りを見せれば逆に気持ちが悪いと言われる。そんな「普通」よりもいくらか惨めな男子高校生の郁実の生活における、特別な役割ができた。  今回も役割を果たせたことに安堵したが、危機的な状況を思い出して冷や汗が出る。初夏の生ぬるい強風では汗も大して冷えない。 「なんかドキドキしてない?」 「うわっ」  全く鍛えていない胸に触れたひなたの手に、郁実は飛び退いて後ずさった。てのひらは日向のように温かかった。  太陽光発電が美少女の姿をとったひなたは、ずっと郁実の住むアパートの屋根にいたのだという。OrganicBerry Piに選ばれたことで郁実から姿が見えるようになり、話ができることを喜んでくれた。  きっと学校での郁実の隠者のような過ごし方など知らないから、親しく話しかけてくれるのだ。止まない夜風が二人の間を隔てる。ポニーテールやミニスカートから伸びた脚が健康的なひなたには、太陽が似合う。  コンビニへと並んで歩き始めたひなたが、郁実を急がせる。 「早くいこうよ」 「またフォッシルズが出るの?」 「アイスが食べたいの!」  形の整った目や口がよく動いて、表情を豊かに変える。  郁実は少しだけ背の低いひなたの隣に並んだ。整った顔立ちとスタイルの良さは、並んで歩くのに釣り合っているとはとても思えないが、ひなたは普通の人間には姿が見えないから郁実が奇異の目で見られることはなかった。 「私、コンビニ大好き」 「そんなに?」  郁実としては極力ネットショッピングで買い物を済ませたい。価格も品揃えも効率も良い。 「コンビニは夜中でもずっと明るくてすごいよね。私もあんな風にできたらなあ」  しかし太陽光発電は太陽が出ている時間にしか発電できない。 「フォッシルズが夜に出るのって、卑怯じゃない?」  ひなたが口を尖らせる。 「再エネって他にもあるんでしょ」 「あるけどさ。他の子じゃなくて、私が、郁実君の役に立ちたいの!」 「ええと……」  美少女から示される好意に郁実は目を泳がせた。こんな経験は生まれてこの方初めてなので、どうしたって挙動不審になってしまう。嬉しさよりも、釣り合わないという引け目を感じる。  他の子、といったのは、ひなたのような存在が他にもいるのだろうか。いてもおかしくはないが。 「バッテリーが、もっと大きいやつがあればいいんだけどね」 「高いんでしょ。無理しなくていいよ」  ひなたが申し訳なさそうに言った。 「なんでモバイルバッテリーってあんなに高いんだろう」  パソコンに詳しい郁実にとって、ハードディスクやUSBメモリーなどは、どんどんディスク容量ごとの価格が下がっていくのが常識だ。  それなのにモバイルバッテリーだけは、いつまで経ってもお得感がない。 「あなたはBMSを知っていますか」  突然、背後から声が聞こえた。振り向くと、街灯の下に黒い陰が見えた。 「キャッ!」  ひなたが驚き、郁実に飛びつく。むにゅっと胸の膨らみが腕に当たる。日向に干した蒲団のようなひなたの匂いに、郁実は言葉を失った。   (記:o-qoo)        -再生可能エネルギーの総合情報サイト-
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